ロサンゼルスでは見られないと思いがちな珠玉の芸術作品 10点

写真提供:@discoverLA、Instagram

 芸術の傑作を探し求めている人たちにとって、ロサンゼルスは必見の場所です。そこには世界中から集められた文化財が溢れています。ファン・ゴッホ (Van Gogh) の『アイリス  (Irises)』、ディエゴ・リベラ (Diego Rivera) の『花の日 (Flower Day)』、そして『考える人 (The Thinker)』や『青い服の少年 (The Blue Boy)』など、これら類像的な作品の多くは、実はロサンゼルスで観ることができるのです。

『花の日 (Flower Day)』 — LACMA

メキシコの著名な芸術家であるディエゴ・リベラ (Diego Rivera) は、その生涯で画架を用いた絵画や水彩画を非常に多く産み出しました。これらの作品はメキシコ土着の人々を描いています。最も有名な作品の一つは「花の日」(原題:Día de Flores) です。リベラが1925年に描いたこの作品は「ロサンゼルス・カウンティ美術館 (Los Angeles County Museum of Art: LACMA)」内にある Art of the Americas Building で永久展示されています。花々を独特にとらえた俯瞰図、そしてブロックのように描かれた人の姿は、リベラの初期の作品であるキュビズムの絵画から派生した修辞的装置ということができます。『花の日』は、アメリカの公的コレクションに収められたリベラの最初の主要な絵画です。

 

 

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写真提供:Wikipedia

『イメージの裏切り (The Treachery of Images)』— LACMA

『イメージの裏切り(これはパイプではない)(The Treachery of Images [This is not a pipe])』(原題:La trahision des images [Ceci n'est pas une pipe])は、ベルギーの芸術家であるルネ・マグリット (René Magritte) 1929年に描いた作品です。当時マグリットは30歳でした。『イメージの裏切り』はシュルレアリスムの傑作であり、現代芸術のイコンでもあります。現在は LACMA 内にある Ahmanson Building にて展示中です。この作品は、1920年代後半からマグリットが取り組んだ「言葉とイメージ」の問題に関わる一連の絵画群のうちの一つです。これらの絵画群を通して、マグリットは、言葉・イメージ・物体を調和させることの不可能性について熟慮しました。『イメージの裏切り』では「事物のイメージは、その物事自体と同定される」という慣習的な考え方に対する意義が唱えられています。この絵画を観た人は、その不可解なメッセージについて考え、ひょっとすると現実を疑問視するようになるかもしれません。「言葉とイメージ」に関する一連の絵画で使用したマグリットのテキストは、後続の若い世代の芸術家例えば、ジャスパー・ジョーンズ (Jasper Johns)、ロイ・リキテンスタイン (Roy Lichtenstein)、ロバート・ラウシェンバーグ (Robert Rauschenberg)、エドワード・ルシェ (Edward Ruscha)、アンディ・ウォーホル (Andy Warhol) などに影響を及ぼしました。

 

 

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『アイリス (Irises)』— ゲティ・センター

1889年、フィンセント・ファン・ゴッホ (Vincent van Gogh) はフランスのサン=レミにある保護施設に入居しました。同年、彼は約130点の絵画を産み出した後に人生の幕を閉じました。保護施設に入居した最初の一週間で、ゴッホは庭の自然を描いた『アイリス』の作成に取りかかりました。この絵画の構成、芯の通った輪郭、近接した視点、単調な色使い、そして咲き溢れるアイリスこれらには日本の版画の影響が見てとれます。ゴッホはアイリスの動きと形を注意深く観察し、アイリスの線が揺れ動いたり巻き上ったりする際に紡ぎ出される様々な曲線シルエットを産み出しました。つまり、描かれたアイリスの一輪一輪に独自性があるのです。この絵の最初の所持者は、フランスの芸術批評家であったオクターブ・ミルボー (Octave Mirbeau) でした。ミルボーは300フランでこの絵を手に入れました。1987年、『アイリス』は当時最も高値がついた絵画になり、この記録はその後250年間破られませんでした。1990年には  J・ポール・ゲティー美術館 (J. Paul Getty Museum) に買い取られ、ロサンゼルスのブレントウッドにあるゲティ・センター (Getty Center) に展示されています。2012年、『アイリス』は絵画の買い取り価格リスト(インフラ調整済み)で10番目に位置しています。

 

 

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『散歩道 (La Promenade)』— ゲティ・センター

ピエール=オーグスト・ルノワールの最も愛されている絵画の一つである『散歩道』も、ゲティ・センターでファン・ゴッホの『アイリス』と同じ部屋に展示されています。ルノワールは、クロード・モネ (Claude Monet) とともに、印象主義の始祖の一人でした。印象主義では、芸術家は「絵画の中では物語を伝えなければならない」という慣習から解き放たれ、彼らが見たものをそのまま描写しました。『散歩道』は1870年に完成し、パリの中流階級に属する恋人同士が自然の中でスタジオを背景としてではなくはたと見える瞬間を描いています。葉の隙間から差し込む光は、彼の絵画におけるトレードマークの一つとなったでしょう。

『アイリス』や『散歩道』が飾られているこの素晴らしい展示室には、クロード・モネの『睡蓮 (Water Lilies)』、「ルーアン大聖堂 (Rouen Cathedral)」、そして「ル・アーブルの港 (Le Havre Harbor)」の諸作品も展示されています。「ル・アーブルの港」の一作品である「印象:日の出 (Impression: Sunrise)」は、印象主義の名前の由来になりました。

 

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『神奈川沖浪裏 (The Great Wave off Kanagawa)』— アーマンド・ハマー美術館

『神奈川沖浪裏』(1831-1833) は日本の芸術家である葛飾北斎による版画です。これは北斎の『富嶽三十六景』シリーズの第一作目として公刊されました。これは北斎の最も有名な作品であり、世界で最も認知度が高い日本の芸術作品の一つです。この版画が描いているのは、神奈川沖で大きな波(英語では okinami と表記されますが、tsunami と誤記される場合があります)が船に立ちはだかり、遠くには富士山がそびえ立っているという風景です。この版画の版は、西洋の名高い美術館ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館、シカゴのシカゴ美術館などに所蔵されています。ロサンゼルスでは、ウェストウッドのアーマンド・ハマー美術館の上位階に位置する UCLA Grunwald Center for the Graphic Arts に所蔵されています。センターは UCLA の学生、先生、一般大衆に開かれていますが、アポイントが必要です。来館される場合には、電話 (310.443.7078) でお尋ね下さい。

 

 

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『ポッチ医師、家にて (Dr. Pozzi at Home)』— アーマンド・ハマー美術館

サミュエル=ジャン・ポッチ医師はフランスの有名な外科医であり、「フランス婦人科学の父」でした。ルネサンス期に生きたポッチ医師は、兵士、政治家、そして美術収集家としての顔も持っていました。彼の友人であるジョン・シンガー・サージェント (John Singer Sargent) はアメリカの芸術家で、ファインアートとしての絵画で国際的な名声を得ました。『ポッチ医師、家にて』(1881) はサージェントの最も有名な作品の一つで、ハンサムな医師で悪名高い遊び人であったポッチ医師を等身大で描いた肖像画です。19世紀の内科医が肖像画の中で典型的に来ていたであろう黒い仕事着とは異なり、魅惑的で血のように赤いガウンをまとい、深紅のカーテンの前に立つポッチ医師が鮮やかに描かれています。この絵画は、アーマンド・ハマーが彼の個人コレクションのためにポッチの息子から1967年に購入しました。その後、1991年からアーマンド・ハマー美術館で一般公開されています。

 

 

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『青い服の少年 (The Blue Boy)』— ハンティントン・ライブラリー

ハンティントン・ライブラリーの美術館で最も有名な絵画は、トマス・ゲインズバラ (Thomas Gainsborough) の『青い服の少年』(1770) です。この絵は、ゲインズバラの親しい友人であり、金物業を成功させた商人の息子であったジョナサン・バトール (Jonathan Buttall) の肖像画です。ゲインズバラがバトールに着せた服は、この肖像画が描かれるよりも140年程前のものです。これはフランダースの巨匠アンソニー・ヴァン・ダイク (Anthony van Dyck) へのオマージュだったのかもしれません。これはイギリスの人たちをうろたえさせたと思われますが、『青い服の少年』は1921年にアメリカの鉄道業界の有力者であったヘンリー・ハンティントンに当時の記録的価格である728,800ドルで売却されました。この絵画がカリフォルニアに渡る前には、ロンドンのナショナル・ギャラリーで一時的に一般公開され、推計90,000人に鑑賞されました。

 

 

『青い服の少年』とほぼ同じ知名度を誇るのはトーマス・ロレンス (Thomas Lawrence) の絵画『ピンキー (Pinkie)』で、これは同ギャラリーの傑出した展示物となっています。これら二点の絵画はセットで大変な人気と美名を得たので、その後、世界中の親が自分の子に、もし男の子であれば青い服を、女の子であればピンクの服を着せました。

 

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写真提供:Norton Simon

『本を持った女 (Woman with a Book)』— ノートン・サイモン美術館

フランスの新古典主義の画家であるジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル (Jean-Auguste-Dominique Ingres) による『モワテシエ婦人 (Madame Moitessier)』を基に、『本を持った女』は1932年にパブロ・ピカソ (Pablo Picasso) によって描かれました。この絵はパサデナのノートン・サイモン美術館で展示されています。モデルは彼の当時の愛人であったマリー・テレーズ (Marie-Thérèse Walter) です。ピカソは、彼よりも随分と若いこの女性とパリのデパートで偶然に出会い、彼女に「あなたは面白い顔をしていますね。あなたの肖像画を描いてみたいです。私はピカソです。」と言ったとされています。この出会いの後、現代芸術の歴史が紡がれていきました。マリー・テレーズに触発され、ピカソは非常に多くの絵画・彫刻・素描・版画を作成したのです。『本を持った女』ではマリー・テレーズは本から目を上にそらして空想にふけり、その彼女のイメージが後ろの鏡に映されています。

 

 

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写真提供:Norton Simon

『考える人 (The Thinker)』— ノートン・サイモン美術館

『考える人』(原題:Le Penseur) はフランスの彫刻家オーギュスト・ロダン (Auguste Rodin) が産み出した、大理石の台座に佇む類像的なブロンズ像です。1902年に初めて鋳造された『考える人』は、深い瞑想状態にある男性を描いており、しばしば哲学の具現として扱われています。しかめ面をつくっている眉と固く握られた拳は、像のモデルが力強い内的な苦闘をしていることを示しています。『考える人』のオリジナル鋳造品は、記念碑サイズで世界中で展示されています。鋳造品第11号はノートン・サイモン美術館に展示されています。

 

 

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『ランズダウンのヘラクレス (Lansdowne Herakles)』— ゲティ・ヴィラ

古代ローマの最も偉大な像の一つが、マリブのゲティ・ヴィラに展示されています。作成が紀元前125年頃まで遡る『ランズダウンのヘラクレス』は、左肩上にこん棒をあて、右手は神話上の生き物であるネメアンライオンに触れているギリシャの英雄を描いています。この像は、ローマ郊外の Tivoli にあるローマ皇帝ハドリアヌスのヴィラの廃墟付近で発見されました。恐らく、失われたギリシャ彫刻に触発されて作成されたものと考えられます。この彫刻は、ギリシャ文化を愛したハドリアヌが造らせたギリシャ彫刻の数あるコピーのうちの一つでした。この彫刻の名前は、かつてヘラクレスを所持し、ロンドンの自宅で見せ物にしていたというランズダウン侯爵が由来となっています。