LACMAで開催中のシャガール展『Chagall:Fantasies for the Stage』を大特集!

Installation photograph (detail), "Chagall: Fantasies for the Stage," from "The Magic Flute," Los Angeles County Museum of Art, July 31, 2017–January 7, 2018, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris, photo © Fredrik Nilsen.

現在 Los Angeles County Museum of Art (LACMA) で開催されている Chagall:Fantasies for the Stage は、20世紀を代表するロシア(現ベラルーシ)出身のフランスの画家、マルク・シャガールの芸術家としてのキャリアにおいて、音楽とダンスがどのように影響し、いかに重要な要素であったかという点にスポットを当てた、アメリカ初となる特別な展示会となっています。エキシビションでは、シャガールの舞台作品たち(1942年のバレエ作品Aleko、1945年のバレエ作品 The Firebird、1959年の Daphnis and Chloe、そして1967年に上演されたオペラ:The Magic Fluteの舞台作品)が、時系列に展示されています。大胆にカラフルな空間演出と、オリジナルのコスチュームが融合した作品たちは、当時の観客たちに驚きを与え、素晴らしい舞台芸術として高く評価されました。今回は、そんなシャガール展の全貌を詳しくひもといていきます。

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Marc Chagall, "The Magic Flute," February 1967, Metropolitan Opera, New York, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York/ADAGP, Paris, photo: Frank Dunand/Metropolitan Opera Archives

Chagall: Fantasies for the Stageは、5つのセクションに分かれており、41着の鮮やかなコスチュームと100のスケッチ、1942年に上演されたAlekoのオリジナルパフォーマンスを記録した貴重なフィルム、ミュージシャンや舞台の様子を描いた絵画のセレクションなど、145点の展示品から成り立っています。

エキシビションを取り仕切っているのはLACMAのシニア・キュレーター(モダンアート専門)である Stephanie Barronさんとそのチームで、オペラディレクターのYuval Sharonさんとプロジェクション・ディレクターのJason H. Thompsom氏が、エキシビション全体のデザインを手掛けています。

「1942年のバレエ作品Aleko、1945年のバレエ作品 The Firebird、1959年の Daphnis and Chloe、そして1967年に上演されたオペラ:The Magic Fluteという、第二次世界大戦中、そしてアメリカに亡命した後に制作された4つの舞台作品に集中する事で、あまり知られていないけれど、非常に魅力のあるシャガールのキャリアについて、深く学んで頂けます。」そう語るのはBarronさんです。

「シャガールの舞台作品は、ビジュアル・アートの歴史において、非常に重要な初期の章、とも言えるのです。シャガールの作品に影響を受け、同じように学際的な作品を創り出すアーティストたちが増えた事により、モダンアートの歴史がより豊かなものとなっていったのです。」

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Installation photograph, "Chagall: Fantasies for the Stage," from "Aleko," Los Angeles County Museum of Art, July 31, 2017–January 7, 2018, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris, photo © Fredrik Nilsen.

ALEKO (1942)

エキシビションは、1942年上演の作品、Alekoで使われた11着のコスチュームと18枚の準備研究作品(スケッチなど)から始まります。ユダヤ人であったシャガールとその家族は、1941年に、ナチスが支配していたフランスからアメリカに亡命しました。その翌年、バレエ・シアター・オブ・ニューヨーク(現American Ballet Theatre)が、1824年出版のAlexander Pushkinによる詩に、チャイコフスキーが音楽を付けた新たなバレエ、Alekoの空間演出とコスチュームデザインを手掛けてくれないか、とシャガールに依頼しました。シャガールの作品は、1942年、メキシコシティーのPalacio de Bellas Artesにて初演をむかえます。一ヶ月後、ニューヨークのメトロポリタン・オペラハウスでも上演され、高い評価を得ました。1943年にHollywood Bowlで上演された際には、シャガールがロサンゼルスに足を運び、話題となりました。

シャガールがハンドペイントしたというコスチュームや舞台装置が、70年以上の時を経て、このような形で展示される事を、当時の人は想像できなかったでしょう。作品中のZemphiaという占い師の役の衣装は、メキシカン・スタイルのドレスにインスパイアされたそうで、シャガールの母国であるロシアの要素も取り入れられた、ユニークな作品になっています。また抽象的な形やパターンは、アンリ・マチスをはじめとする、モダニズム・アーティストたちの作品に影響されたことを現しています。

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Installation photograph, "Chagall: Fantasies for the Stage," from "The Firebird," Los Angeles County Museum of Art, July 31, 2017–January 7, 2018, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris, photo © Fredrik Nilsen.

THE FIREBIRD (1945)

続けてシャガールは、バレエ・シアターの興行主であるSol Hurokがストラヴィンスキーの作品、The Firebirdを再上演するにあたり、舞台のコスチュームと空間デザインを依頼されました。シャガールは舞台カーテン、セット、コスチュームを手掛け、作品は、1945年10月2日にメトロポリタン・オペラ・ハウスで上演されました。The Firebirdは、評論家からも高い評価を得て、瞬く間にヒット作となりました。シャガールの手掛けた作品は現在でも非常に人気があり、ニューヨーク・シティー・バレエの2016年シーズンでも上演されています。美術館では、8着のコスチュームと32点の関連作品が展示されています。

The Firebirdにおける、80着を超える動物やモンスターのコスチュームは、シャガールの作品の中で最も実験的で、アヴァンギャルド的(革新的芸術作品)な作品であるといわれています。実の娘、Idaと一緒に制作した事がきっかけとなり、シャガールは新しい素材や加工テクニックを積極的に取り入れたのです。透明感がある素材と、重くリッチな色合いの素材を融合させたり、コラージュのようなアップリケや複雑な刺繍を組み合わせ、ボリュームのある、彫刻のようなシルエットのフォルムを創りだしました。

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Installation photograph, "Chagall: Fantasies for the Stage," from "Daphnis and Chloe," Los Angeles County Museum of Art, July 31, 2017–January 7, 2018, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris, photo © Fredrik Nilsen.

DAPHNIS AND CHLOE (1959)

8年後となる1948年に、シャガールはフランスに戻りました。それと同時に、Paris Opera Balletから、ギリシャ人の詩人、Longusの作品がベースとなっているモーリス・ラヴェルのバレエ、Daphnis and Chloeのコスチューム、舞台デザインを依頼されました。シャガールは、作品の舞台となっているギリシャに2度足を運び、デザインのモチーフや色合いのインスピレーションを得たといいます。シャガールがデザインを手掛けた Daphnis and Chloeは、1959年5月にParis Operaでプレミア上演されました。エキシビションでは、8着のコスチュームと、28点の関連作品が展示されてます。

Daphnis and Chloeにおいてシャガールは、振付け師のGeorge Skibine、そしてダンサーたちと密接に連携し、動きを研究しながらコスチュームを制作しました。層状のきらきらとしたアップリケが薄い素材に縫い付けられた衣装や、大胆な色がペイントされた帯などは、ダンスそのものの美しいラインとダイナミズムを強調するために取り入れられたといいます。またシャガールは、ダンサーたちを、彼の舞台背景(絵画作品)の中で「動くエレメント」としてとらえていたともいわれてます。

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Installation photograph, "Chagall: Fantasies for the Stage," from "The Magic Flute," Los Angeles County Museum of Art, July 31, 2017–January 7, 2018, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York / ADAGP, Paris, photo © Fredrik Nilsen.

THE MAGIC FLUTE (1967)

1967年2月にニューヨーク・リンカーン・センターにてスタートした、メトロポリタン・オペラ・ハウスのシーズン開幕作品となった、モーツァルトの人気作 The Magic Flute (魔笛)においては、14着のコスチュームと16点のスケッチが展示されています。幅い広い層から絶賛されましたが、これがシャガールの最初で最後のオペラ作品となりました。オペラ内での数々の場面転換や、大規模な舞台装置を取り入れた演出、歌い手の数の多さなど、全ての要素を考慮し、強く鮮やかな色、そして印象的な幾何学的フォルムと背景とのコントラストを通して、魔笛のドラマティックな物語を表現しようと試みました。

ユニークで想像力豊かな動物たちは、これまでの作品、AlekoやThe Firebirdで登場した作品にとても似ています。シャガールの過去の舞台作品と絵画作品たちが、魔笛の制作においてとても大きな影響を与えていた、というのは魔笛の作品たちをご覧頂ければ分かるかと思います。シャガールは、作品に動きを出す目的で、深みのある色に染められた素材とカラフルな素材を層状に配置し、刺繍したラインをほどこしたといわれています。

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Marc Chagall, "Self-Portrait with Seven Fingers," 1912, Stedelijk Museum, Amsterdam, on loan from the Cultural Heritage Agency of the Netherlands, © 2017 Artists Rights Society (ARS), New York/ADAGP, Paris, photo: Banque d’images, ADAGP/Art Resource, NY

ICONIC PAINTINGS AND MORE

シャガールの舞台デザインとともに、今回は、貴重な絵画作品も(小数点ですが)展示されています。多くの作品は、世界の名だたる美術館から、エキシビションの期間中借りているものです。アムステルダムにあるStedelijk MuseumからはSelf-Portrait with Seven Fingers (1912)、ニューヨークにある Guggenheim Museum からは Green Violinist(1923–24) 、デュッセルドルフにあるKunstsammlung Nordrhein-Westfalenからは The Violinist (1911–14) が届いています。また、LACMAの永久コレクション(permanent コレクション)の1つ、Violinist on a Bench (1920) も展示されています。

また会場では、現代アーティストやコスチュームデザイナー、オペラ・プロフェッショナルなどの方々にインタビューしたスペシャル映像をご覧頂くことができます。Chagall: Fantasies for the Stage は、現在公開中(2017年7月31日からスタート)で、2018年1月7日まで開催しています。チケットの購入方法など、詳しく知りたいというかたは、LACMAのウェブサイトをご覧ください。